人気映画やヒット曲などのデータを交換するパソコンのファイル共有ソフト「Winny」(ウィニー)を開発することで、映画や音楽の違法コピーを容易にしたとして、京都府警ハイテク犯罪対策室と五条署は10日朝にも、著作権法違反ほう助の疑いで、東京都在住の30代の東京大助手に任意同行を求め、逮捕する方針を固めた。ウィニーは、インターネット上で無料で公開されているプログラムソフト。ソフト開発者を著作権法違反の「ほう助」に問うのは国内初。海外でも共有ソフト開発者の刑事事件での立件はほとんど例がない。
世界的にファイル共有ソフトを使った著作権侵害が横行していると懸念される一方、国際的にもファイル共有ソフトの違法性に対する司法判断が分かれており、是非をめぐって論議を呼びそうだ。
府警の調べでは、東大助手は、従来より匿名性が高く、警察に摘発されにくいファイル共有ソフトを開発しようと計画。インターネットの大手掲示板「2ちゃんねる」で開発計画を発表するとともに、2002年5月、自身のホームページにウィニーのソフトを公開した。ウィニーを使って、群馬県の店員(41)=著作権法違反の罪で公判中=らが人気映画のデータを不特定多数の人に違法公開するなど、東大助手は著作権者に無断で、映画やゲームなどの著作権を侵害したデータのやりとりを容易にした疑いが持たれている。
また、府警は10日にも東大大学院情報理工学系研究科など数カ所の強制捜査に着手する方針。
東大助手は情報処理工学が専門。ネット掲示板で「47氏」と呼ばれ、「そろそろ匿名性を実現できるファイル共有ソフトが出てきて現在の著作権に関する概念を変えざるを得なくなるはず。自分でその流れを後押ししてみようってところでしょうか」などと、ウィニーの開発意図を説明していた。
■著作権侵害、国際的に割れる判断
包丁は野菜を刻むこともできるし、人を傷つけることもできる。罪に問われるのは、人を殺傷した実行行為者だけだ。拳銃は、人を殺傷する以外に目的を持たず、日本では所持も製造も禁止されている。京都府警が今回、ウィニーという通信ソフトの開発者を著作権法違反の「ほう助」で立件に踏み切るのは、同ソフトをネット社会における「拳銃」の開発に等しい、と判断したといえるだろう。
ウィニーは、利用者がプロバイダーに登録する必要もなく、やりとりされるデータはすべて暗号化されている。府警ハイテク捜査室は、開発した東京大助手がインターネットの大手掲示板「2ちゃんねる」に書き込んでいた発言などから、同ソフトの開発が、捜査当局の摘発を逃れて著作権侵害の違法なデジタル複製の流通を容易にするためで、立件は可能と結論付けたもようだ。
ただ、ネット社会と著作権という世界規模の問題の中で、「通信ソフトの責任」をどう考えるかは、社会的な合意に達していない新しい問題だ。日本では、ファイル交換サービス会社に対して違法な音楽ファイル交換をやめさせるよう命じた仮処分が出されている。しかし欧米では、「ビデオ録画機が海賊版の製造に使われても、録画機自体は違法ではないのと同様」として、ファイル共有ソフト自体は違法ではないとの判決も相次いでいる。
ウィニーの基本である端末同士のファイル共有という考え方は、特定の事業者が介在しない新たな通信形態として、学術分野や産業界でも注目を集めている。
社会的に有益な通信形態の開発は、一方で、悪用される危険を常にはらんでいる。ネット社会で責任を取る主体は誰なのか。少なくとも、大手プロバイダーなど通信事業者の存在を前提する現在の通信関連の法規制も、見直しを迫られるのは間違いない。府警の今後の捜査に注目が集まる。
|